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2005/11/29

ドア・イン・ザ・フロア<恵比寿ガーデンシネマ>

とても「デリケート」な映画。けれども、彼らは、それぞれが違う形で、必ず再生する。予感が残る。

「細部は詳細に…」
小説家テッド(ジェフ・ブリッジス)が、何度か口にする言葉です。このストーリーは、手短に話すことはできない。「あらすじ」にしてしまうと、全く違う印象になってしまう。
傷つく、それも激しく傷ついて、たとえようのない「喪失感」を味わった場合、人はどうなるのか、どうするのか。

主要な人物たちは、みな複雑。
エディ(ジョン・フォスター=ベン・フォスター<『ホステージ』に出演>の弟)という青年は、比較的理解しやすい存在で、小説家が描かれる世界から、やや離れていたのだが、いつの間にかしっかりその世界の住人になってしまっている。あれだけのことで、大人になれたのだとしたら、それは随分聡明なことであると思う。

「……」
小説家の妻(キム・ベイシンガー)は、あまり多くを語らない。無言で、複雑な表情を見せるだけ。だからこそ、なおさら、この物語を持って行ってはいけない方向へ誘ってしまう恐れがある。

「死ぬって壊れること?」と訊ねる小さな娘ルース(エル・ファニング=ダコタ・ファニングの妹)。
最愛のふたりの息子を目の前で失った母は、その喪失感から抜け出せず、また、抜けだそうとせずに生きてきた。無理なのだと思う。抜け出すことなど、できないことだ。
「ルースを生まなければよかった。新しい土地で、新しい人生をやり直せると思った…」というマリアン(母)。
失ったふたりの息子に代替はない。決して。
人生は、リハーサルができない。試行錯誤でしかない。

「悪い母になるくらいなら、私は、母をやめる」といって、ルースからも逃れ、夫の元を去る決断をするマリアン。
それでいい。彼女は、そうしなければならなかった。

どうしようもない「澱み」に落ちた家族は、それぞれが、それぞれに「再生」していかなければならない。
人は、ひとりで生まれ、ひとりで死ぬのだから。孤独は、ある種の「強さ」でもある。
「澱み」から抜け出すために、エディの若さ、無垢、純真、真剣といった資質からあふれ出る「欲望」「情愛」が必要だった。彼は、撹拌する。逃れようのない「澱み」を。

原作の始めの部分を忠実に映画化したというこの作品。著者も絶賛しているらしい。
著者の非常に「デリケート」な表現方法、切実なリアリティ、ユーモアは、「孤独」を縁取る輪郭のように思える。それでいて「再生」へ向かうエネルギーは、各個人が持っているのだ、というメッセージが強烈に伝わってくる。それがたとえ「孤独」と見え、実際「孤独」であろうとも。

「ドア・イン・ザ・フロア」そこを開けて、どのみち外界へ歩み出すもの。
「開けてはいけない」という母親がいても、「開けてしまう」男の子がいる。
「生まれない方が良い」という選択は、ここにはない。

観賞をなかばあきらめかけていたのだが。最終週。
どさーっと、たくさんのことを投げ出されたような気分。
この映画と他の映画(たとえ、どんな映画でも)は、掛け持ちできない。

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「映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

■purple in sato さんへ
こちらこそ、TBとコメントをありがとうございます。感謝です。
『愛をつづる詩』を続けてご覧になられたご様子ですね。
こりゃ、混乱しますです。あちらも、非常にユニークな映画で、映画で「詩」の世界を表現しているような雰囲気ですものね。たいへんだわ。

原作本、枕元に置きながら、「眠れない日々と♪」で徹夜が続いておりまする。。。

投稿: あかん隊 | 2006/01/10 00:11

あかん隊さん。
TB&コメントありがとうございました。
っと、本作+で掛け持ちしてしまいました…。
かなり頭の中は混乱…う~ん失敗だったのか?
まぁ~自分なりに纏めたのですが…なんか違うような気がしてきました(汗)
しかし、ぼかしに情けが全くなくかなりガッカリでした…うむむ。
では、また遊びに伺わせてもらいますね♪

投稿: purple in sato | 2006/01/09 23:08

■いわいさんへ
初めまして。ご訪問いただきまして、ありがとうございます。TB、コメントまで…。感謝です。
アーヴィングの作品が、お好きだとか。自分は、ひとつも知りませんでした。この映画の原作は、購入してきたので、じっくり読む予定です。ですが、「翻訳本」は、どうも苦手で、なかなか…。アイザック・アシモフ(古いな~)等の、SFなどですと、比較的すらすら読めるのですけどねぇ。>軽薄なだけか(汗)。

投稿: あかん隊 | 2005/12/09 09:38

はじめまして。
どこが良かったんだか全然整理できないくらい好きな映画です。

>この映画と他の映画(たとえ、どんな映画でも)は、掛け持ちできない。
確かにその通りだと思います。
続けてみる時間を考えて 先に「ポビーとディンガン」をみたんですが、この順番にしておいてよかったと思いましたよ。
恵比寿ガーデンシネマだと、先に整理番号をもらっておくのでキャンセルできないですし。
でも、約束があったので、その後もう1本みてしまいましたけれど。。

それでは、これからもよろしくお願いします。

投稿: いわい | 2005/12/09 09:05

■かえるさんへ
かえるさんのブログへは、よくお邪魔させていただいております。お世話になります。
どちらかというと短絡的に考えてしまう方(自分)かもしれないので、難しい映画を観た後は、あとから何度か考え直してみたりすることもあるのですが、意外と最初に感じたことが、一番しっくりくるなぁ、と思うこともよくあります。
個人的には、感情移入はおろか、こうした経験は、ちょっとできなそうなので、いろいろ思いましたが、やはり「文学」なのだろう…ということで納得することにしました。(汗)
原作は、これから読みます。(購入済み)
パンフレットには、「童話」(下記に説明)の表紙イラストと、映画の中でテッドが創作していた「ドア・イン・ザ・フロア」の文章の抜粋が載っています。
『誰かが音をたてないようにしているような音』(A Sound Like Tying Not Make a Sound)のタイトル童話は、ジョン・アーヴィングが、初の絵本として実際に出版されている…とのことです。

投稿: あかん隊 | 2005/12/01 20:50

■マダムSさんへ
「タメ」と知ってからは、とても他人と思えないような…(爆)。
ニフティのブログサーバーが、絶不調だったため、ご訪問いただいた方、コメントやTBをいただいた方に、さぞかしご迷惑お掛けしていたと思います。TBについては、逐次チェックしています。ご心配なく、さっと整理いたしますので。(笑)
今日は、幾分良いようです。いつまた何時、トラブルになるかもわかりませんが。多分、たくさん苦情メールが届いたのだと思います。
エディのように聡明な青年は、そうめったにいないような気がしますけど、知識より、経験から体得する「知恵」のようなものは、大事だなーと思いました。

投稿: あかん隊 | 2005/12/01 20:32

駆け込みで、ご覧になったのですねぇ。

孤独は怖くて避けたいんですけど、孤独でいる方が楽だったりもするんですよね。
澱みからは抜け出せるものではないかもしれませんし。
この種のタイプの人々はずっとこういう複雑な思いの中で生きていくのかも・・。
なんてことを思ってしまうウツ女な私はこういうメランコリックな雰囲気の映画が結構好きですー。
床の上のドアにも激しく惹かれましたー。
続きが気になるー

投稿: かえる | 2005/12/01 14:47

あかん隊さん お早う御座います~♪
だぶってしまったトラックバック消してくださったんですね?お手数おかけしました!
あまりに重くて思わず2回クリックしてしまったんです・・。アリガトォ(/o^∀^o)/
目の傷ですか!お母様も随分心配された事でしょうね!何事も無くて何よりでした。
ルースの”傷”は指だけでは無いですものねぇ・・エディは若いのに随分含蓄のある台詞を言えたものだと感心もしました(笑)ひと夏の経験が彼を”かなり”の大人にしたと思われますよね(^^;)

投稿: マダムS | 2005/12/01 08:51

■マダムSさんへ
TBとコメントをありがとうございます。
そうそう。「…この傷を見るといい」というところですね。自分は、4歳の時に、転んで釘が目の端に当たって、麻酔なしで4針縫いました。傷は残っていて、中学時代は「タレ目の手術の失敗だろう?」なんて言われました。言った子たちと一緒に笑っていたくらいで、たいして何も思いませんでした。忘れてたし。母は、手術室の向こうで失神寸前だったらしいです。「女の子が目を…」ってんで。
だから、ルースが、何かの度に思い出すとしたら、それは他の記憶要因も大きいのじゃないかなぁ…。それとも自分の極小記憶領域が、災いしているのでしょうか?(汗)

投稿: あかん隊 | 2005/12/01 00:51

■悠さんへ
ほんと、バッカスのようでしたね>テッド。
あの姿も、息子たちが生きていた頃には、なかったのではないかなぁ…と想像。事故の後、あのような生活が始まったのじゃないかなぁ。笑いも交えて表現されていたけど、テッドもマリアンも、結局抜け出せてなくて。
どうにもこうにも、叙情的で、現実味の薄い映画だったかな、特に日本人には…。

投稿: あかん隊 | 2005/12/01 00:41

コンバンワ~♪
TB&コメント有難う御座いました♪
最終週に間に合って良かったですね^^
原作読み始めてまだほんの最初の方だけですが(ちょうど映画で描かれた部分)、作者が監督を「この人なら」と指名したというワケがわかるような気がしました。
だって、下手すると本当に全然違った味わいの話になってしまいそうですもの・・キャスティングも絶妙でしたね キム・ベイシンガーとジェフ・ブリッジスの演技力に負う所も多いと思います。
エディの一言・・いいですよね
人間って誰かの一言で救われるって事沢山ありますもの。

投稿: マダムS | 2005/11/30 23:04

脳天気に、酒とねーちゃんに囲まれる児童文学者に、おおーバッカスも、現代の世界におりてくると、日々の苦労をせおわにゃいかんのか、ってな風に見てました。最後の2階からドアをあけて階段をおりるところで、老いを感じてるのかな~。殺されそうになったときは、体鍛えてたのが役にたちましたが。
語りの惨劇の内容がすごかったですね、あれ、画像が省略されてるので、よけい。

投稿: 悠 | 2005/11/30 22:28

■RINさんへ
原作の文庫を購入してきていますが、まだ手つかずです。が、誘惑に弱い自分は、カバー裏のあらすじを読んでしまいました。(汗)
しかも、上下巻の目次だけ、しっかり読んだ…。はは…(汗)。
翻訳ものは、読みづらいので、熱が冷めないうちにつらつら読む予定です。

物語の内容にばかりフォーカスしてしまいましたが、この映画、実にすてきなシーンがたくさんありましたね。
テッドの衣装も、赤い傘も、マリアンのピンクのカーディガンも…。
手前に甘いフォーカスの人物をなめて、向こう側にいる人物にフォーカスしたり、マリアンの表情がはっきりわかるようにアップの時間が長かったり…。全体的な色調も、控えめでところどころにアクセントになる色があったりして、イメージをふくらませる効果が巧みだったと思います。

投稿: あかん隊 | 2005/11/30 21:35

TBありがとうございます。
今、原作読んでいる最中です。ちょうど映画化されたアタリまで進んだところです。
実に原作に忠実に映画化してますね。
ただ、原作ではキム・ベイシンガーはまだ39歳なんですけど、違和感ないですね。(スゴイ・・・)
原作では、エディがルースに抜歯したあと「傷」のお話をするところで泣けました。
「勇気があるっていうのは、起ったことを受け入れること。何とか頑張って乗り越えることだよ。これから一生、勇気は必要なときには指の傷を見ればいい・・・(続く)」
マリアンを失って、エディは初めて、「自分の声」を手に入れています。
一方、マリアンは作家志望だったけど、彼女の永遠のテーマは息子の死であり、永遠に描くことはできない。
少しネタバレですが、原作では、三十数年後、エディはルースを愛します。
マリアンとも再会します。
前半3分の1だけ「完璧に映画化して、残りは原作を読んでくれればいい」というやり方は実に正解だったな、と思いますね。
全部を映画化していたら、これほど「喪失感」を深く描けなかったと思います。

投稿: RIN | 2005/11/30 09:30

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